教授ご挨拶

 

荒井 俊也 教授

杏林大学血液内科学教室の荒井俊也です。このたび、初代教授・高山信之先生の後任として当教室を主宰することとなり、ご挨拶申し上げます。

当教室では、患者さん一人ひとりに最善の医療を届けることを第一に、教育と研究にも力を注ぎ、バランスの取れた発展を目指しております。

血液内科は、白血病、リンパ腫、多発性骨髄腫など、生命に関わる悪性疾患を中心に、主として薬物療法による治療を担う診療科です。近年、治療法は飛躍的に進歩しており、従来は薬物療法による根治が難しかった疾患でも、新たな治療法の導入により、根治や長期生存が現実のものとなりつつあります。

一方で、こうした専門的治療に携わる血液内科医や対応可能な施設は、当院が所在する東京都多摩地域では人口比で不足しており、唯一の大学病院本院としての責務は年々重みを増しています。当科では、一部の免疫細胞療法を除く、あらゆるタイプの造血幹細胞移植を含めた血液内科的治療を幅広く提供しておりますので、安心してご紹介・ご受診いただければ幸いです。

また、地域全体の血液診療の質を高めるには、当科単独では到底力が及びません。血液内科は、患者さんが直接受診するというより、地域の先生方に血液疾患を疑っていただき、ご紹介いただくことで診療が始まることが多い領域です。そのため、平時から連携体制を構築し、いざというときにスムーズに専門的治療へつなげられるよう努めてまいります。原因不明の血球数異常やリンパ節腫脹、不明熱など、良性・悪性を問わず血液疾患の可能性がある際には、どうぞお気軽にご相談ください。

血液内科では、医師が一人の患者さんと比較的長期間にわたって関わることが多く、そうした中での患者さんとの向き合い方や意思決定の進め方は、若い医学生や研修医が現場で学ぶべき重要なスキルです。そのような学びの機会として、若手医師や学生が患者さんと接する場面もございますが、適切な指導のもとで行っておりますので、ご理解賜りますようお願い申し上げます。

また、大学病院として、医療技術の発展を目的とした基礎・臨床研究も重要な使命と考えております。当科では、成人白血病治療共同研究機構(JALSG)や日本臨床腫瘍研究グループ(JCOG)などによる多施設共同臨床試験に積極的に参加し、血液内科診療におけるエビデンスの創出に努めております。一部の研究では、診療の過程で採取された検体の残余分を活用させていただく場合がありますが、その際には所定の手続きを経て、適切に対応しております。こちらにつきましても、ご理解のほどお願い申し上げます。

多摩地域、さらには日本の医療に血液内科学を通じて貢献することを目指し、教室員とともに一歩ずつ歩んで参ります。今後とも変わらぬご指導ご鞭撻を賜りますよう、よろしくお願い申し上げます。

2025年6月 荒井俊也

以下 近日更新予定です

高山 信之 教授

杏林大学血液内科学教室の教授を拝命しております高山信之です。私は、平成14年に、本学の第二内科学教室(当時は循環器内科と合同)に講師として着任いたしました。当時は、血液内科としての診療の基盤がまだほとんど確立していない状況で、多くの困難を伴いながら、一歩一歩目の前の患者さんの治療を精一杯行って参りました。幸い、医局の仲間や、他の診療科の先生方、看護師、薬剤師の方々などたくさんの方々の協力を得て、少しずつ体制が出来上がり、今日では、多くの患者さんをご紹介いただく多摩地区を代表する施設になったものと考えております。 

血液疾患は、一つとして簡単に治るものはなく、いずれ劣らぬ難病ばかりです。白血病、悪性リンパ腫、多発性骨髄腫といった造血器腫瘍は言うに及ばず、再生不良性貧血や特発性血小板減少性紫斑病などの良性疾患でも、高度に専門的な対応が要求されます。血液内科の診療の主軸となっているのは薬物療法で、手術やインターベンションといった特別な修練を伴う手技ではありません。一見、誰にでも簡単に処方できてしまう薬ですが、それぞれ特殊な副作用を伴うものが多く、それらを適切に使いこなすには、患者さんの状況を正しく判断する洞察力と、背景となる幅広い内科的知識が必要です。原疾患により、あるいは副作用により、全身のあらゆる臓器が侵される血液疾患の治療においては、全身を俯瞰する総合的判断力が要求され、血液内科が最も内科らしい内科といわれる所以でもあります。

治療の方向性を正しく導くには、正確な診断が欠かせません。特に血液疾患においては、末梢血液像、骨髄像、リンパ節病理などの所見を正しく解釈することが大変重要です。当教室では、悪性リンパ腫に対しては、月1回病理の先生と合同で検討会を行い、臨床と病理と双方の立場から、疾患に対する理解を深めるようにしています。また、血液、骨髄の塗抹標本も、カンファレンスにおいて全員で供覧しながら、治療方針を決定するように努めているのも当施設の特徴です。

難治性血液疾患の治療においては、化学療法と造血幹細胞移植が車の両輪です。当施設では、そのどちらもおろそかにすることなく、初診から治療の完遂までを一貫して診られる診療施設を目指しています。造血器腫瘍においては、当施設にて初回寛解導入療法を行う患者さんが毎年相当数あり、化学療法の件数としては都内有数となっております。当施設では、すべてのスタッフがすべての疾患を全員参加で診る体制となっているため、患者さんが化学療法で治癒困難となり、造血幹細胞移植の適応と判断された場合も、スムーズに移植に移行することが可能です。当施設における造血幹細胞移植は、平成14年に自家末梢血幹細胞移植の第一例、平成16年に同種骨髄移植の第一例を実施し、以後、自家、同種ともに多数の患者さんの移植を行っています。最近では、迅速な移植が可能な臍帯血移植に力を入れており、より多くの患者さんに移植の機会を提供できるよう努力しています。

血液疾患の治療には長い時間がかかります。一通りの予定の治療を完遂するだけでも半年くらいはかかることが多く、その後も年余にわたって治療を継続することも少なくありません。病状が好転した場合は患者さんとともに喜び、残念ながら治療が奏効しなかった場合も何か別の方策がないか頭を悩ませ、そして、どうしても治癒が難しくなった場合は、患者さんが最後まで望む人生を全うできるよう手助けをします。患者さんと医師は、同じ目標に向かって進む同志だと考えています。

現在、血液内科を目指す若い医師は、必ずしも多くはありません。血液疾患自体が稀少疾患であること、治療内容が難しくわかりにくい、というのが主な理由と思われます。しかし、疾患の病態解明、新たな治療薬の開発などは、あらゆる疾患に先駆けて最先端を走り、また、難病を克服する過程には多くのドラマがあり、その達成感は何物にも代えがたいものがあります。医師としてのやりがいには不足はありません。多くの若手医師の血液内科への参入を期待しています。

杏林大学血液内科は、今後も、よりよい医療を提供できるよう、最大限の努力を続けて参ります。これからも、皆様のご支援を何卒よろしくお願い申し上げます。

2022年3月