教授ご挨拶

高山 信之 教授

杏林大学血液内科学教室の教授を拝命しております高山信之です。私は、平成14年に、本学の第二内科学教室(当時は循環器内科と合同)に講師として着任いたしました。当時は、血液内科としての診療の基盤がまだほとんど確立していない状況で、多くの困難を伴いながら、一歩一歩目の前の患者さんの治療を精一杯行って参りました。幸い、医局の仲間や、他の診療科の先生方、看護師、薬剤師の方々などたくさんの方々の協力を得て、少しずつ体制が出来上がり、今日では、多くの患者さんをご紹介いただく多摩地区を代表する施設になったものと考えております。 

血液疾患は、一つとして簡単に治るものはなく、いずれ劣らぬ難病ばかりです。白血病、悪性リンパ腫、多発性骨髄腫といった造血器腫瘍は言うに及ばず、再生不良性貧血や特発性血小板減少性紫斑病などの良性疾患でも、高度に専門的な対応が要求されます。血液内科の診療の主軸となっているのは薬物療法で、手術やインターベンションといった特別な修練を伴う手技ではありません。一見、誰にでも簡単に処方できてしまう薬ですが、それぞれ特殊な副作用を伴うものが多く、それらを適切に使いこなすには、患者さんの状況を正しく判断する洞察力と、背景となる幅広い内科的知識が必要です。原疾患により、あるいは副作用により、全身のあらゆる臓器が侵される血液疾患の治療においては、全身を俯瞰する総合的判断力が要求され、血液内科が最も内科らしい内科といわれる所以でもあります。

治療の方向性を正しく導くには、正確な診断が欠かせません。特に血液疾患においては、末梢血液像、骨髄像、リンパ節病理などの所見を正しく解釈することが大変重要です。当教室では、悪性リンパ腫に対しては、月1回病理の先生と合同で検討会を行い、臨床と病理と双方の立場から、疾患に対する理解を深めるようにしています。また、血液、骨髄の塗抹標本も、カンファレンスにおいて全員で供覧しながら、治療方針を決定するように努めているのも当施設の特徴です。

難治性血液疾患の治療においては、化学療法と造血幹細胞移植が車の両輪です。当施設では、そのどちらもおろそかにすることなく、初診から治療の完遂までを一貫して診られる診療施設を目指しています。造血器腫瘍においては、当施設にて初回寛解導入療法を行う患者さんが毎年相当数あり、化学療法の件数としては都内有数となっております。当施設では、すべてのスタッフがすべての疾患を全員参加で診る体制となっているため、患者さんが化学療法で治癒困難となり、造血幹細胞移植の適応と判断された場合も、スムーズに移植に移行することが可能です。当施設における造血幹細胞移植は、平成14年に自家末梢血幹細胞移植の第一例、平成16年に同種骨髄移植の第一例を実施し、以後、自家、同種ともに多数の患者さんの移植を行っています。最近では、迅速な移植が可能な臍帯血移植に力を入れており、より多くの患者さんに移植の機会を提供できるよう努力しています。

血液疾患の治療には長い時間がかかります。一通りの予定の治療を完遂するだけでも半年くらいはかかることが多く、その後も年余にわたって治療を継続することも少なくありません。病状が好転した場合は患者さんとともに喜び、残念ながら治療が奏効しなかった場合も何か別の方策がないか頭を悩ませ、そして、どうしても治癒が難しくなった場合は、患者さんが最後まで望む人生を全うできるよう手助けをします。患者さんと医師は、同じ目標に向かって進む同志だと考えています。

現在、血液内科を目指す若い医師は、必ずしも多くはありません。血液疾患自体が稀少疾患であること、治療内容が難しくわかりにくい、というのが主な理由と思われます。しかし、疾患の病態解明、新たな治療薬の開発などは、あらゆる疾患に先駆けて最先端を走り、また、難病を克服する過程には多くのドラマがあり、その達成感は何物にも代えがたいものがあります。医師としてのやりがいには不足はありません。多くの若手医師の血液内科への参入を期待しています。

杏林大学血液内科は、今後も、よりよい医療を提供できるよう、最大限の努力を続けて参ります。これからも、皆様のご支援を何卒よろしくお願い申し上げます。

2022年3月